追悼・弘田三枝子さん

不世出のジャズ歌手、弘田三枝子さんが2020年7月21日に永眠されました。doLuck Jazzレーベルにキラリと輝く一枚のアルバムをもたらせてくれたことに感謝しますとともに、ご冥福を心よりお祈り申し上げます。

　それは、2018年正月2日の一本の電話から始まった。「平井さん、弘田さん録らんね？」北九州のジャズ・ドクター後藤先生からだった。なんでも直前に弘田さんと話して、今年はジャズ・アルバムをつくりたいということになったらしい。彼女は大手レーベルに属しているが、ジャズに関してはレーベルも事務所もノータッチとのことで、doLuck Jazzからリリースしてもいいのだという。
　さっそく打ち合わせが始まった。私はレーベルを紹介する意味でそれまでに出していたヴォーカル・アルバムをすべて差し上げていた。彼女はそれらをていねいに聴いてくれたようで、その中から一曲、今まで歌ってこなかったのでどうしても歌いたいと「Black Coffee」がまず決まった。後藤先生からのリクエストで「Alfie」と「Laura」も入った。私は「All Of Me」と「The Good Life」をリクエストした。弘田さんとアルバムづくりができるなんて、なんてロマンティックなんだろうとアルバム・タイトルを決めていたので「Isn’t It Romantic?」も入った。弘田さんは前年に出したシングルから「ひいふうみいよう」に英語詩をつけて歌いたいといった。そして「星に願いを」を日本語でも歌ったのは彼女のアイデア。おかげでアルバムの一曲目とラストが決まった。
　最初の電話から12月の発売まで、楽しく濃密な一年はあっという間だった。「引退までにもう一枚つくりましょうね」と約束していたのだが、それが果たせなくなってしまったのが悲しくて悔しい。
　弘田さん、素敵な時間をありがとうございました。どうかゆっくりとおやすみください。

（doLuck Jazz 平井清貴）