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doLuck jazz DLC-19 2,400円(税別) 12月19日発売 |
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Liner Notes ヴォーカル界の至宝、レジェンド・シンガー、弘田三枝子の「原点回帰」アルバム 今や日本のヴォーカル界の至宝と言っても過言ではないレジェンド・シンガーの弘田三枝子がジャズ・アルバムを携えて戻ってきた。ジャズ・アルバムとしては2006年発売の『弘田三枝子JAZZ COLLECTION』(CD8枚組BOX)にニュー・アルバムとして入っていた「MICO JAZZING」以来12年ぶり、まさに「ミコ・イズ・バック」である。弘田三枝子と言えば7歳の頃から立川の米軍キャンプでジャズやポップスを歌いながら幾多の経験を積み重ね、1961年、14歳の時にヘレン・シャピロのデビュー曲「Don’t Treat Me Like A Child」の日本語版「子供ぢゃないの」でデビュー、1965年7月、なんと18歳で日本人歌手として初めてニューポート・ジャズ・フェスティバルに出場、ビリー・テイラー・トリオをバックに堂々と歌い切ったのである。当時の記録はスタジオ録音であるが同メンバーで『Miko In New York』というアルバムに収録されている。あのエラ・フィッツジラルドから天賦の才能を認められ、養女に請われたという逸話も残っている。また、歌謡界のNo.1歌手であった美空ひばりもジャズやR &B、ソウル、ポップスを歌う彼女は天才だと認めていたと言う。更にサザン・オールスターズの桑田圭祐さえも、弘田三枝子をモチーフに彼女を讃える「MICO」という曲を作っている。 そんな抜群の歌唱力を持つ弘田三枝子は、ともすれば、1969年「人形の家」で第11回日本レコード大賞歌唱賞を受賞して大ヒットしたことで、一般には歌謡・ポップス歌手のイメージが強いが、本人も語っている通り、彼女のルーツはジャズである。1978年にベースのリチャード・デイヴィスがプロデュース、ドラムスのビリー・コブハム、ピアノのスタンリー・カウエル、トランペットの日野皓正、サックスのジョー・ファレルという豪華メンバーで吹き込んだ『Step Across』は今でも彼女の最高傑作と信じて疑わない。特に私の大好きなドラムスのビリー・コブハムをバックに歌う彼女のメリハリの効いた自由奔放さは筆舌に尽くし難い凄さだ。彼女をリスペクトする真のジャズ・ヴォーカル・ファンやミュージシャンは数多く、前出の限定盤『JAZZ COLLECTION』は驚異的高値で取引されている。本作はそんな自身の人生を振り返り、その総決算として全身全霊でジャズに向き合った、まさに、彼女のジャズへの「原点回帰」と言ってもよい珠玉の逸品となっている。この作品はジャズ・ピアノの名匠、北島直樹の抜群のアレンジとツボを得た煌めくピアノに支えられ、程よい空間のジャズ・クラブで、グラスを傾けながら、静かに落ち着いて聴くにふさわしいアルバムである。弘田三枝子は何でも歌える、幅広い技巧を持った実力派の歌手であるが、ポップス系の歌の数々で聴かれるダイナミックでパンチの効いたいつもの歌唱は抑え気味で、肩の力を抜いた控えめの歌い回しがなんとも心地よい。年輪を重ね、枯淡の境地に至った弘田三枝子の真髄が自然体で表現されており、ジャズ歌手としても、彼女は別格の存在であることを世に示す大人のジャズがここにある。しかもアルバム・タイトル通り、全体を通してなんともロマンティックな作品に仕上がっているのだ。彼女と同世代のオールド・ジャズ・ファンだけでなく、ヤング・ジェネレーションにもぜひ聴いて頂きたい実に味わい深きワン・アンド・オンリーなアルバムであると言えよう。 彼女の人生をかけたジャズへの思い、自分のジャズを愛してくれるファンへの思い、これから彼女の歌を聴いてファンになってくれる若い世代への思い、いろんな思いが凝縮されている。本作はジャズ・シンガーとしての弘田三枝子が今でもトップ・ランナーであることを世に示すアルバムである。 (2018.11.22.記:後藤誠一) |