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doLuck jazz Supported DLS-4 (Autumn Leaves Record) 2,400円(税別) 6月23日発売 |
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Liner Notes 外山安樹子トリオ初のスタンダード集。 リーダー外山の作曲力にその魅力の多くを負ってきたこのユニットの活動を思えば意外の感もありますが、これまでもライブにおいてはプログラムの半数近くにスタンダード曲も織り込んで構成してきていることを知る方々には、結成10周年記念の前作"Toward the 11th"(2018年)を経たこのタイミングで発表されるのも自然なことと受け止められることでしょう。2020年春以来の世界的に活動の制限された状況において、譜面&マイナスワンつきのデジタル音源『まっすぐに』のリリース、東京都の芸術活動支援企画に呼応して制作されたガーシュウィン『ラプソディー・イン・ブルー』YouTube公開、時短要請下でのライブ継続など地道な活動を繰り広げてきた彼女達、その意欲と充実ぶりを伝えるに充分な仕上がりです。テイストとしては2017年のクリスマス曲集ミニアルバム”Snowing Town"と同系列の作品と言えるでしょう。 過去のアルバム中の既成曲、「Bye Bye Blackbird」「Caravan」「A Night in Tunigia」などはその多くが大胆な拍子のチェンジやリハーモナイズが施され、言わばアレンジの段階からこのトリオのキャラクターが反映されたものでしたが、この新作では大きくアレンジされたものは「A Girl from Ipanema」「Love Letters」などの数曲にとどまり、ほとんどの曲が僅かなヘッドアレンジのみでストレートに演奏されています。ジャズという、即興性に最大の価値を置くジャンルで真っ向勝負を挑んでいるとも言えますが、聴いての印象は気負いなく自然体、このトリオ本来のメロディとスリルの絶妙なバランスに興味を引きつけられるものになっています。 思えばこの三人、日米ジャズレジェンドの誰かからの薫陶を受けたわけでもジャズスクールの方法論に学んだわけでもない、ジャズにこよなく愛情を注ぎつつ独自の距離感を保ってきた稀有な組み合わせ。こういった出自もこのアルバムの風通しの良さに繋がっている気がします。90年代初頭からキース・ジャレットのスタンダード作品にインスパイアされて欧州に広がったピアノトリオの隆盛、ルーツの呪縛から解き放たれたあのフレッシュさに通じるものが感じられます。 多くのスタンダードジャズファンの耳にこの作品が届くことを願っています。既にオリジナルの新曲も続々とライブで披露されている外山安樹子トリオ。このスタンダード集での挑戦を超えて、次作がどのようなものになるのか、期待の高まるところです。 (木瀬口眠之 April 2021) |