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doLuck jazz DLC-4
2,400円(税別)
5月27日発売

 
Archaic Machiko / Machiko Miura Sings...

みうらまちこ(vo)
平木かよ(p)
山下弘治(b)
藤井学(ds)

2015年2月11/12日 前橋・スタジオ8で録音

■収録曲(試聴できます)
01 My Man
02 New York State of My Mind
03 Stranger in Paradise
04 Love for Sale
05 横浜ホンキー・トンク・ブルース
06 Lover Come Back to Me
07 Misty
08 All of Me
09 So in Love
10 私の知らない国
11 Tennessee Waltz
12 In My Life

Liner Notes

みうらまちこ待望のデビュー・アルバム
 このアルバムで初めてレコード・デビューする「みうらまちこ」とは、昔から音楽以外の縁で長い付き合いがあり、いつの間にかボーカルを専門に習得して、東京の外国人記者クラブで発表会を開いた時に、その本格的なボーカルを聴いて、びっくりした覚えがある。もともと英語は外資系会社の秘書などをしていたので経験があり、同時通訳の神様といわれた村松増美氏と私と共に深い交流があったから、外国人としゃべれる英語力があって不思議ではない。きけば最初のプロ・キャリアは銀巴里に始まり、シャンソンを古賀力に、カンツォーネを荒井基裕に習い、ジャズを村上京子と沢田靖司に師事したという。そして外国人記者クラブやJZ Brat、モーション・ブルー・ヨコハマなどを中心に歌い、レパートリーを増やしていった。彼女は非常に広域な声量と多様な声色をもっており、高い声が楽々と出ると同時に、低音の抑えた声がよく伸びて届くので、曲趣に応じて多彩な表現をする能力がある。場数を経るに従って、その使い方がうまくなってきたので、彼女ならではの個性が発揮できるようになった。
 幸い共演するピアノを始めとするリズム陣に彼女の特質を心得て適切にサポートするプレイヤーが固まってきた。今回の録音に際しても、MACHIKOグループともいえる3人の一流ジャズメンが集まったので簡単に紹介しよう。
■平木かよ(ピアノ)
 1988年ニューヨークに出てその魅力にとりつかれ、94年からグリニッジ・ヴィレッジの“Arturo's”のハウス・ピアニストをつとめ、自身のトリオやカルテットで毎週月〜金の5日演奏を続け、多くのファンをもち、ボーカルも手がける。その間バリー・ハリスやロン・カーターを始め多くのジャズメンと共演しレコーディングや世界各地のツアーに従事。最近は毎年6月ヨーロッパへ。日本へも年2回Kayoピアノ・トリオでツアーしている。
■山下弘治(ベース)
  1967年名古屋市生まれ。名古屋大学理学部在学中から向井滋春(tb)らと共演し、卒業後椎名豊(p)トリオ&セクステットに参加。94年上京し向井滋春グループに参加、96年以来ハンク・ジョーンズと度々共演、スコット・ハミルトン(ts)とも国内ツアー。04年クラシックのコントラバス奏者として初舞台を踏む。2010年より自己のバンドNEW5を結成し、オリジナル曲中心のストレート・アヘッドなジャズで各地のフェスティバルに出演。アコースティックなベースの暖かい音色とビッグ・トーン、堅実且つ大胆なプレイが高く評価される。
■藤井学(ドラムス)
 1966年広島県福山市生まれ。14歳からドラムを始め、名古屋の大学に在学中小濱安浩(ts)カルテットに参加、上京して滝野聡(g)バンドや阿川泰子(vo)バンドに参加、JAZZの他、Rock、Latin、Fusionなど多様なジャンルに対応して、各地のフェスティバルに出演。2006年ニューヨークのミュージシャンと初のリーダー作『I'm a drummer.』を録音発表。

本作アルバムのデータと内容
 録音は、2015年2月11〜12日、前橋市「スタジオ8」にて。
 アルバム・タイトルは、みうらまちこの希望もあり、『アルカイク・マチコ』となった。弥勒菩薩のアルカイク・スマイルのごときみうらまちこの千変万化の不可思議な魅力が表現されることを目指した。彼女が歌唱の練磨に精進している時、あるテナー歌手やバンド・マスターから「間違いなく世界的な声だ」「太古のイメージがある」と評されたという賛辞を肝に銘じて精進を続けてほしい。
 本アルバムは収録12曲、全て彼女が普段歌い慣れた曲を選んだ。ジャズ・ボーカルには冒頭の「My Man」を始め、彼女の尊敬するビリー・ホリデイの愛唱曲が5曲ある。彼女のボーカルの発端となったシャンソンが1曲、毎回好評の日本のポップスも1曲、彼女の全貌を知るに最適のセレクションといえるだろう。
 各曲について彼女のコメントを始めに紹介する。
1. My Man
みうら「ジャズ・シンガーでは一番好きなビリー・ホリデイで一番初めにきき、やがてシャンソンがオリジナルと知りました。シャンソンでも日本語訳(古賀力)を歌っています。心情がいじらしい。ずっとずっとこれからも歌います」  みうらが最も入れこんでいる唄をオープニングにもってきたのが彼女の意欲をよく現している。原曲は「Mon Homme」の題で1920年ミスタンゲットがパリのレビューで歌ってヒットし、早速英語詞がついてアメリカで歌われた。ビリー・ホリデイ(1915〜59)は1937年テディ・ウィルソンのコンボでテーマ・メロディを初めて歌ったが、48年ボビー・タッカーのピアノ伴奏でヴァースから全文を丁寧に歌ったのが評価され、以降クレフとヴァーヴにも再録音した。「彼は他にも女がいるし私をぶったりもするけど私は彼を永遠に愛する」と切なげな女心を、みうらは平木のピアノと切々と表現する。
2. New York State of My Mind(ニューヨークの想い)
みうら「なぜか大好きな曲、ずっと歌ってます」
 ビリー・ジョエルの1976年の曲がスタンダードになって特に日本ではあらゆる歌手が歌う。“State”の語はニューヨーク州の姿を「ニューヨーク流の想い」に引っかけた洒落た唄だ。
3. Stranger in Paradise
 ロシアのアレクサンドル・ボロディン作曲の歌劇『イーゴリ公』のバレエ合唱曲からアダプトして1953年のミュージカル『キスメット』に挿入され、トニー・ベネットの唄でもヒットした。優雅なメロディにみうらの美声が生きる。
4. Love for Sale(恋の売り物)
みうら「こうした女性の強がりが私にはけなげです」
 御存知コール・ポーターの曲を、ボサノバを速くしたリズムで熱っぽく歌う。
5. 横浜ホンキー・トンク・ブルース
みうら「大好きな横浜の夕焼けと過ぎゆく時間のいとしさを感じて歌ってます」
 横浜の「モーションブルー」のライブで人気の、彼女にぴったりの曲だ。
6. Lover Come Back to Me
みうら「人と人との思いは必ずしも同じでないことの切ないような現実」
 スウィングする4ビートにのって、ピアノを始めドラム、ベースが躍動するリズムを叩き出し、彼女もホットに盛り上げる。
7. Misty
みうら「ちょっとの間でも、夢でもああ、こうした恋につい縋りたくなる気持ちがよく判ります」
 エロール・ガーナーが作曲し、後にジョニー・バーグが「私は霧の中にいるように夢うつつで恋をしています」というロマンティックな詞をつけた。彼女のドリーミーな声がよく似合う。
8. All of Me
みうら「どうしてこう、ぴたっと人に出会うことが難しいのかなあ」
 ビリー・ホリデイは30年代から最後まで歌った愛唱曲だった。「なぜ私の全てを奪わないの…」と烈しく迫る積極的ラブソングで、日本では初心者が先ず習う程ポピュラーになった。ピアノソロに続いて山下のベースが軽快にスウィングする。
9. So in Love
みうら「映画『五線譜のラブレター』の中で私の一番好きなシーンで、病床の奥様を前に座らせて、コール・ポーターが出来たばかりの曲を弾き語ります」
 音楽的な香気のみなぎる曲調を、彼女はベースだけのバックで歌い出し、中間にベースの弓弾きソロをはさみ、清澄な高音質の声を生かし切った歌唱法が映える。
10. 私の知らない国
みうら「一番好きなシャンソンです。シャンソン歌手の堀内美希さんに高野圭吾さんの訳詞でいただきました」
 彼女は日本語のポップスと日本語のシャンソンをジャズのスタンダードの中に自然に融合させて違和感なく聴かせる術がうまい。
11. Tennessee Waltz
みうら「母親の好きな曲です」
 この曲はもう日本のポップスのようになっている。
12. In My Life
みうら「ビートルズはこの一曲でよいと思うくらい好きな曲」
 ジョン・レノンが故郷リヴァプールの建物や名所旧跡を思い出の場所として愛し、それ以上に君を愛す、と作詞したことが有名だ。原曲では音楽監督のジョージ・マーティンのピアノが評判だが、ここでの平木かよのピアノも素晴らしい。
(2015年4月12日 記)

瀬川昌久(ジャズ評論家)
Producer's Note

 doLuck Jazzレーベルの4作目は、タイトルどおり“アルカイク”な魅力をもったみうらまちこのアルバムです。評論家・瀬川昌久氏に紹介された彼女に最初に会った時、印象に残ったのは彼女がつねにおだやかな微笑をたたえていたこと。なのでアルバム・タイトルについて彼女から提案があった時、すんなりと決めることができました。さて、これまでの2作品のヴォーカリストと比べると、ワタクシとみうらまちことのお付き合いは、そんなに長くはありません。せいぜい数回ライヴを聴いてCD制作を決めるという、いささか無謀な気がしないでもない決断の末、いつものように前橋のスタジオで録音にのぞんだのですが、ワタクシの目に狂いはなかったことは、このアルバムが示してくれています。瀬川氏のライナーにあるように、彼女はシャンソンからそのキャリアをスタートしています。本作にもジャズ・スタンダードだけでなくシャンソンの曲が含まれています。日本ではシャンソンは原詩だけでなく日本語の詩で歌われることも多いのですが、彼女もここで、見事な語り口を披露してくれています。そう、語り口のうまさ、言葉の扱いのていねいさが、みうらまちこの最大の持ち味であり、ワタクシが録音を決めた最大の理由なのです。
 その歌のむこうに、歌い手の人生がどれだけ立ち現れてくるか。ワタクシがその歌手のちからを判断する基準なのですが、さてみうらまちこの歌に、あなたは彼女の、そしてあなたの人生を、どれくらい聴き取り、見ることができたでしょうか。
doLuck Jazz 平井清貴