TOPCDContact



doLuck jazz DLC-34
2,640円(税込)
11月12日発売

 
3・4 / Yosuke Tamura Piano Trio

田村陽介(ds)
田窪寛之(p)
池尻洋史(b)


2025年7月7,8日 東京・亀吉音楽堂で録音



■収録曲(試聴できます)
01 Just Like A Butterfly
02 Rudolph, The Red-Nosed Reindeer
03 One Less Bell To Answer
04 The Man I Love
05 Chancey
06 Tonight
07 Change The World
08 Four
09 When Your Lover Has Gone
10 Things Like That

Liner Notes

 ドアを開けるとざわざわとした店内、ほどよく席は埋まっている。早くもいいペースで飲んでいる客、運ばれた酒に手を付けず黙って目をつむっている客、調子よくジャズのうんちくを語る男、気のない返事を返す女。三者三様に過ごす先客を横目に空いている席に落ち着く。なんとかオーダーを済ませると奥の扉が開き、ミュージシャンたちがテーブルの間をかきわけ、ステージにあがり位置につく。ざわついた空気が少し緊張をおびる。ドラマーがスティックをかまえ「ワン・ツー」そして囁くように「スリー・フォー」。ライヴが始まる。この瞬間がたまらない。
 田村陽介の2枚目のリーダーアルバム「3・4」はカウントのスリー・フォーであり、トリオの3人がお客様のために心を込めて演奏する「3 for」だという。リーダー田村陽介(dr)、田窪寛之(p)、池尻洋史(b)のトリオは新宿御苑のライヴハウス“ONE NOTE”が育てたトリオ。とても大切にされている良いピアノ、お店を愛するお客様、美味しい料理(王道ナポリタン!)、お店とお客様とミュージシャンのベストな関係。そんな理想的なライヴハウスでの地道なライヴは、最初はぽつりぽつりだったお客がいまや毎回満員となる人気プログラムに。そしてここのアルバムが生まれた。なんと“幸せな結末”。
 1曲目はライヴの最初に短く演奏するアート・テイタムの隠れた名曲「Just Like A Butterfly」。小川のせせらぎの煌めきのような田窪のピアノソロから田村のドラムと池尻のベースが加わり、しっとりと優雅なリズムに最初の緊張がゆっくりとほどけていく。2曲目は「赤鼻のトナカイ」で知られるクリスマスライヴの定番。バグパイプ的なアレンジが面白い。3曲目は田窪のアレンジでフィフス・ディメンションのヒットで知られるバカラックの曲。池尻のベースがフィーチャーされ少しせつない曲調が際立っている。4曲目と5曲目(オリジナル)は大学時代の田村がドラマーらしくリズムに誘われて迷い込んだ神社で出会ったアフリカ/ガーナの木琴「コギリ/ザイロフォン」奏者「チャンシー」との出会いで生まれた。田村のドラミングは徐々にトランス状態となり、ピアノとベースがエキゾチックなリズムを添える。6曲目は一転して華やかに軽やかにバーンスタインの「Tonight」。巧みなドラミングで田村がバンドをギアアップし、チャーミングなピアノのメロディと太く優しいベースがみごとに踊りだす。7曲目、ゆっくりと歩くようなベースソロで始まるクラプトンの「Change the world」。田村が大好きな曲で父との思い出でどうしても入れたかった曲。トリオの阿吽の呼吸が素晴らしい。8曲目は、マイルズ・デイビスの「Four」。初めてONE NOTEでスタンダードを演奏することになったとき、田村のアレンジ曲を1曲は入れることとし、最初のアレンジとなった。王道ジャズのサンバアレンジが意外にフィットして軽快で楽しい。9曲目は、スイング時代の曲が大好きな田村が選んだスタンダード「When Your Lover Has gone」。イントロのブラシワークに聴き惚れているとググっと盛り上がり、呼吸がぴたりとあったトリオのスイングが小気味よい。最後はこのアルバムのために昔作ったブルーズを改作したという「Things Like That」。ライヴハウスとそこに集うお客様とともに育ったトリオにもはや気負いはなく、“そんなことさ”と、てらいのないリズムを刻みメロディは歌いグルーブが生まれる。
 かつて、ファーストアルバム『Love Calls』のライナーノーツの中で、“Well-tailored(仕立ての良い)”と田村を腕のいい仕立て屋のように書いたことがある。セカンドアルバムを聴いていて新たなイメージが生まれた。ピアノの調律師が黙々と弦のゆるみを張り直し、ねじを締め、鍵盤の感触を確かめピアノの音を生まれかわらせるように、田村は黙々とリズムを刻み、ときに緩め、ときに急かし、ときにスパイスをまぶし、ピアノとベースと共にグルーブを、スイングを生み、観客に感動を与える。メガネの奥の優しい眼差しは常に音楽をトリオの演奏を調律している。黙々と。
 “無口な調律師”。仕事は確かで、不思議と温かい。

2025.9.15 Tue On a slow boat to … 店主 白澤茂稔