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![]() doLuck jazz DLC-32,33 3,960円(税込) 1月21日発売 |
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Liner Notes ある晴れた日、旅芸人一座の小さな馬車が少し湾曲したでこぼこ道をトコトコと進んできた。手綱を握る男は旅の疲れか馬車の揺れにあわせて船をこいでいる。鍋から釜から家財道具一式、衣装や楽器、ついてきた野良猫まで荷台に乗せて幌をかぶせてギシギシ車輪を軋ませて。幌の上で寝ている女は馬車の揺れに助けられ、ずり落ちる寸前で寝がえりを打って事なきを得ている。曲がり角に差し掛かった瞬間、女は突然ぱっちりと目を覚まし、スパイのようにさっと馬車を飛びおり道端の小さなカフェをのぞき込む。こぢんまりとしたカフェはそこそこ賑わい、音楽が流れ、小さな舞台もあり珈琲の香りが漂っていた。「ここ演れそうよ!」と振り向くと、いつのまにか手綱を握っていた男が同じく頭を並べ頷いていた... ジプシー・ジャズバンド GYPSY VAGABONZ(以下、GV)との出会いは、こんな風に始まった・・・わけではなく、まだコロナ禍の影響が抜けきらない3年前に、たまたま自転車で通りかかった大西秀子と孝旺の二人が入口からお店をのぞき「ここで演りたい!」とメッセージをくれてから。ジプシー・ジャズバンドと聞いて、すぐに冒頭のようなストーリーが湧いてきた。さてどんなものかとYouTubeで演奏を聴き、目も耳も驚いた。音楽性は言うまでもなくミュージックビデオやレトロファッションの抜群センスに一発で魅了され、すぐにライヴをオファー。2年前の最初のライヴから大盛況。舞台と客席が一体となって大盛り上がり、「こんなライヴをしたかったんだよな~」と思ったのをいまでも覚えている。それからなんどかライヴをお願いして毎回盛り上がり、旧知のdoLuck Jazzの平井清貴氏に「GVでアルバム作りませんか」と、お声がけしたことからアルバム制作が決定。わずか2年で、こうしてニューアルバムのライナーノーツを書いている。あらためて展開の速さに驚いている。 GYPSY VAGABONZは2005年10月に結成。ジプシー・ジャズとポップスの融合G-POPを標榜し、ジャンゴ・ラインハルトが確立したジプシー・スウィングにラテン、ブラジル音楽、ロックなどの要素を取り入れたオリジナル曲を中心にライヴ活動を展開、現在は、ヴォーカル・ギター・フルート 大西秀子、ギター&アレンジ大西孝旺、ヴァイオリン田中雄一のトリオを中心に活動を続け、今年2025年10月に20周年を迎えた。 GVを特徴づけるのはなんといってもオリジナル曲の歌詞とアレンジ。作詞・作曲は大西秀子(以下、G-秀子)、アレンジは大西孝旺(以下、G-孝旺)。日本語の歌詞は、ジプシー・ジャズから感じる様々な感情をさらに際立たせ、1曲ごとに映画を見ているような感動を与える。G-孝旺のアレンジはハードロック/ハードメタルマニアを自認しているだけにロックテイストが散りばめられ、自由なアイデアが重力すっ飛ばして縦横無尽にかけめぐる。それでいてジャンゴの世界へのリスペクトはしっかりと感じる。この二人の最強夫婦コラボレーションがGVの世界観をつくっているといってもいいだろう。 さて、詳細な解説はG-秀子におまかせするとして、詩とアレンジに注目して曲ごとに見ていこう。 「カワイイスパイ」で、クールなスパイとうらはらなかわいく切ない女心が、ややロックテイストのクールなスウィングに、「ロマロマロマンティック」では、言葉遊びが軽快なリフで最高に楽しくスウィング、「消えてく君、離れられない僕」は1曲目のアンサーソングのような切なさが、マカフェリ・ギター専用ピックアップのスタイマーの独特な音色で際立つ。「トウキョウジプシー」の無国籍映画のようにノスタルジックに混沌とした世界が、和楽器や和音階、かけ声でみごとに表現されていて、G-孝旺アレンジの真骨頂、ライヴで最高に盛り上がるまさにGVワールド。「交差する真夜中」はオリジナル唯一のインストでG-秀子の作曲。ヴォーカル・ギター・フルート、MC(&爆笑)といつも大忙しのG-秀子がフルートに集中。優しい眼差しのような愛あるアレンジが盛り立てる。「二人の散歩」はG-孝旺の作曲・アレンジで、ジプシー・ジャズをアル・ジャロウ風にしたという。ちょっと意表をついた歌詞とともにロマンティックな仕上がり。「パラダイスへ行こう」はタイトルのイメージとは裏腹にぎゅうぎゅうに詰め込まれたフラストレーションの発露。アレンジもジャンゴを離れGVオリジナルの世界。「大人になった僕」は舞台公演のための書き下ろしで、ストーリーの一部である歌詞の世界を大切にしたアレンジ。「君とフランスへ行きたいな」はアルバムのための書き下ろし新曲。フランスへの憧れを旅行鞄にパンパンに詰め込んだような曲で、GV節ともいえる底抜けの明るさがラストにふさわしい。 そして、Disk2はカバー曲集。ジャズスタンダードから「Autumn Leaves」はマイナーキーの曲にあえてメジャーを織り込むことで、GVらしい遊び心あふれた仕上がり。ジミーローセンバーグの「Made for Wesley」は、ハードロック/ハードメタル好きのG-孝旺らしいアレンジながら原曲のイメージは活かされている。日本語の曲として選んだのは「蘇州夜曲」。原曲のイメージが強くジプシー・ジャズからは遠いが、G-秀子のノスタルジックなヴォーカルが原曲の世界観に合っている。ラスト2曲は同じジャンゴの曲。G-孝旺によれば「Micro」はジャンゴをよりジャンゴに、ジプシー・ジャズテイストもより強く強調したアレンジ。「Douce Ambiance」は倒置法的な始まりと終わりに雰囲気のあるコード進行でGVらしさを出している。2曲ともGVのテクニックのレベルの高さを感じ、ジプシー・ジャズ愛に溢れた仕上がりになっている。 最後になってしまったがタイトルの「Variety」。GVのライヴのたびに思うが、どこからなにが飛び出すかわからない面白さ。泣いて笑って号泣、爆笑、ちょっと切なく、とってもあたたかい。ジプシー・ジャズやジャズスタンダードなどのルーツ音楽を継承しつつ、いろんな遊びが新しさを生みGVならではの多種多様な音楽世界を展開している。そしてライヴにおける最高のショウマンシップ。それがタイトル「Variety」に込められた意味ではないだろうか。 カフェは大盛り上がり、酔客は音楽がやんでも踊って飲んでまだまだ大騒ぎ。そんな喧騒をよそに、いつのまにか旅芸人の荷物はすっかり荷台に積まれ、小山のような馬車が車輪を軋ませよろよろと走り始める。道の先には大きな三日月。幌の上にはギターを弾く女のシルエット。ギターの音もだんだんと小さくなり、もう馬車の後ろ姿も見えなくなった。でもまだまだスウィングは終わらない。 2025.10.14 Tue On a slow boat to … 店主 白澤茂稔
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