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doLuck jazz DLC-10 2,400円(税別) 8月10日発売 |
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Liner Notes ますます進化する吉野ミユキ・カルテット~ Growing Up ~ 瀬川 昌久 吉野ミユキ・カルテットが前作『Starting Point』に続いて、新作『Growing Up』を完成した。アルトサックス奏者の吉野ミユキを中心にピアノの外山安樹子、ベースの若林美佐、ドラムスの鈴木麻緒の4人から成るこの女性コンボは、数あるホーングループの中でもその成熟した音楽性と高い実力において、今やひときわ傑出する存在となっている。 それは、吉野カルテットには他のグループに見出しにくい特色が育っているからだ。もちろん吉野ミユキをリーダーとする以上、吉野の奏するアルトサックスのプレイと、作品の中枢を占める彼女のオリジナル曲が中心となるのは当然だが、その演奏を聴いていると4人の優れたプレイヤーが相互の刺激的交流を通じて渾然一体となったサウンドを形成しており、このカルテットならではの魅力のある音楽が生まれている。 端的に言えば、絶えざる進境を示す”おとなのモダンジャズ”である。若手の奏者たちが、コルトレーンやハード・バピッシュな尖鋭的プレイに走りがちなのに比し、吉野のアルトにはそれを咀嚼した上での熟成したトーンとフレージングが備わり、それが全メンバーに浸透している。2年前のアルバム制作以来、吉野カルテットのメンバー出演回数は地方を含めて飛躍的に増加し、人気も高まっている。各メンバーの活動も一層活発化し、吉野の後進への指導育成、外山の自己トリオの新作、若林の海外ミュージシャンの招聘、鈴木の学生のための音楽教育など、各自の実践を継続する努力が彼女等の個人的な人間性を深め、ユニットとしての存在優位を高めている。 【新作アルバム『Growing Up』について】 前作と同じく録音は前橋の夢スタジオにおいて、2016年3月30日から31日に実地された。 全10曲の中、吉野オリジナルが5曲、スタンダードが5曲とバランスが良く選曲されたので、吉野ミユキの個性的作品の多彩な面白さと、スタンダード処理の気軽な楽しさの両面を十分に味わうことが出来る。 演奏曲目については、吉野自身の作曲や選曲の動機や聴きどころを平易に興味深く綴った解説文があるので、私の短いコメントを付け加えることにする。 『Love For Sale』に使われているリズムのセカンドラインの原案は、ニューオリンズ葬送バンドの行進に際しバンドを取り囲んで一緒についていく群衆のことで、葬儀が終わってバンドがジャズマーチをにぎやかに演奏し始めると、テンポを速めてStrutting(気取った歩き)やShuffle(すり足)やPrancing(馬のようにはねる)で踊りだす。その躍らせるリズムのことだ。 『All For One』はミディアムテンポにのって、しっかりとした大人のムードが良く出ている。 『I Thought About You』は最近日本の歌手もよく歌っているきれいなメロディのラブソングで、吉野のアルトが切ない心を歌う。後半のピアノとのユニゾンのフレーズとベースソロのフレーズが聴きどころだ。 『Growing Up』は速いテンポの明るい曲でリズムもにぎやかでドラムも躍動する。テーマ部分の上昇フレーズが魅力的だ。『 When Sunny Gets Blue』は2大名手のデュオだけに聴く程に味の出るバラード名演だ『。Nuit』は美しい印象画を見るような魅惑的なメロディだ。『 Wherever It Goes』はピアノレスなので、ベースソロを十分に展開し、ドラムのブラッシュによるソフトなドライブ感が素晴らしい。 『Passion In Blue』はアルバム中最もホットな演奏で、後半のアルトとピアノのリズミックなリフとドラムソロとの交流が更に更に盛り上げる。ボサノヴァの『 Fotografia』を演奏しても吉野カルテットらしいファンタジックな味が漂い、スタンダード中のスタンダードの『 My Foolish Heart』を演奏しても、吉野ミユキには彼女ならではの抒情性が強く感ぜられる。 2016年7月5日 瀬川昌久 『Starting Point』から『Growing Up』へ 2015年7月、女子カルテットのメンバーと4泊5日で東北地方に行き、いろいろな場所で演奏させていただきました。2011年3月の東日本大震災における被災地の復興がまだ進んでいない地域があり胸が痛みます。音楽を通して少しでも復興のお力になればと思い東北に向かった私たちですが、そこでお会いした方々の復興に対する力強い決意や前を向いて歩む姿に、逆に私たちが勇気づけられました。 中でも、快晴の日に岩手県陸前高田で見た草木の緑が、私の目に焼き付きました。風に吹かれながらも地にしっかりと根を張りまっすぐに伸びるその草木は、正に東北の底力の象徴のように感じられ、メロディがふと浮かび無我夢中で作曲しました。 このアルバムのタイトルの『Growing Up』は、東北の復興を心より願うと共に、東北の草木の緑のように私たちもまっすぐに成長していきたいという思いを込めて付けました。前作の『Starting Point』から2年、私たちの『Growing Up』を感じていただければ幸いです。 1, Love For Sale ニューオリンズでの伝統的な葬儀で演奏される音楽のリズムに「セカンドライン」があります。このリズムを使ってアレンジしました。演奏の後半に、「終わると見せかけてまた行進が始まる」という部分があるので、ぜひ見つけてみてください。 2. All For One (吉野ミユキ・オリジナル) タイトルの由来は、19世紀のフランスの新聞連載小説「三銃士」で、三銃士が一致団結する時に言う言葉「One For All, All For One」。後に日本ではラグビーの選手がチームワークを高める時に使うようになりました。三銃士やラグビー選手が使う合言葉がタイトルのこの曲の私たちの演奏は、少し男らしい雰囲気になりました。 3. I Thought About You 「一人で旅に出かけてみたけど、あなたのことばかり考えてしまう」という歌詞の内容もメロディも大好きな曲です。この曲は、サックスを演奏するというよりは歌詞が聴こえてくるようにヴォーカリストの気分で演奏しました。 4. Growing Up (吉野ミユキ・オリジナル) このアルバムのタイトルでもあるこの曲は、生き生きとまっすぐに育つ東北の草木のイメージ。青空が広がる雲一つない夏の快晴の日、大地に根を下ろした緑の草木が風に吹かれて気持ちよさそうにそよいでいます。 5. When Sunny Gets Blue ピアノの外山さんのダイナミック且つ繊細な演奏が大好きです。本作品唯一のサックスとピアノでの演奏ですが、自然体で良い感じのデュオになったと思います。歌詞は、「失恋した友人に『電話が来ないだけだよ』などと言ってなぐさめる」という内容。 6. Nuit (吉野ミユキ・オリジナル) 女子美術大学の元学長の佐野ぬい先生は、海外でも評価の高い「ぬいブルー」と称される青を基調とした独特の抽象絵画が魅力的な画家。光栄なことに私の演奏の印象を絵に描いてくださりました。その御礼に私が作曲したのが『Nuit』。佐野先生の絵の右下に必ずあるサインが『Nuit』で、フランス語で「夜」という意味です。 7. Wherever It Goes (吉野ミユキ・オリジナル) 肩肘張らずに心の赴くままに歩んで行けたら…。そんな思いを込めて作曲したのが、この曲です。本作品の唯一のピアノレスの演奏で、私のサックスから始まり、ベースとドラムがそれを追うようにしてリズムを刻みます。三人の「心の赴くままの会話」を楽しんでいただければ嬉しいです。 8. Passion In Blue (吉野ミユキ・オリジナル) 私はスポーツ観戦が好きなのですが、2014年のサッカー・ワールドカップの時に日本代表チームを応援していたら、最初のメロディが浮かんできました。日本代表チームの愛称は「サムライブルー」、タイトルの由来はここにあります。 9. Fotografia この曲の歌詞の内容は、「遠くに行ってしまう恋人と海辺のテラスに二人でいる私」というもので、少し哀愁が漂います。シンプルなメロディですが味があり、アルトサックスの音色に合う曲だと思います。 10. My Foolish Heart この曲の歌詞の内容は、「本当の恋か偽りの恋か疑心暗鬼になっている私が、この恋こそ本物だと信じることにする」というものです。正にこの恋が始まるところに『start』という単語があり、この部分に特に気持ちを込めました。テーマの後半の部分でサックスが長く音を伸ばしてだんだんと大きくしているところです。燃えるような恋の始まりを私なりに表現しました。歌詞が聴こえるような演奏になっていれば幸いです。 2016年7月1日 吉野ミユキ |